Inspiration

2024.04.12

自然は哲学的なインスパイアに満ちている/林真理子<jonnlynx>

着る人の魅力を引き出すファッションブランド<jonnlynx>のデザイナー・ディレクターを務める林真理子さん。プライベートでは普段からサーフィンやスノーボードなどのアウトドアスポーツを楽しんでいます。目まぐるしくトレンドが移り変わるファッションの世界に身を置く彼女にとって、海の上や山の中といった自然の中で過ごす時間はどのようなものなのでしょうか。アクティブに楽しむ理由を伺いました。

サーフィンは心も体も緩め、スノボは地に足がつく

サーフィンを始めたのは19、20歳ぐらい。友達が海に誘ってくれたんです。気持ちよさそうに波に乗っている姿を見ていたら自分もできそうだなと思ってやってみたんですね。そしたら全然できなくて(笑)。あまりに悔しかったから、本格的に始めることにしました。初めて波に乗れた瞬間はお金では買えないような幸福感に包まれて、それがクセになっちゃったんでしょうね。25年以上、サーフィンを続けていて、今ではサーフィンがライフワークになりました。だいたい週1、2回、波がいい時は週3回行くことも。とはいえ、すごく上手というわけではないんですよ。でも、それがいいのかも。難しいから、飽きることなくずっと続けてこられたんだと思います。

スノーボードは40歳から始めたんです。夫が冬になるとスノボに出かけるので、じゃあ私もやってみようかと。こちらも最初は全然できなくて、早く滑れるようになりたいと思って、毎年冬になるとスキー場に通うようになりました。できなかったことが少しずつできるようになっていくのももちろんうれしいのですが、この歳になって夢中になれるものに新たに出会えたことがうれしかったですね。友人には40歳を過ぎてサーフィンを始めた人もいて、それを聞くと「うんうん、最高だよね。この歳から新しい楽しみを見つけるって」とうれしくなります。

スノボを始めて、自分は自然のことを何も知らなかったんだなと気がつきました。ずっとサーフィンをやっていて海が身近な存在だったから、自分は十分自然を知ったつもりでいたんです。でも、スノボをするようになって、「雪山がこんなに美しいなんて」と驚いた。そういう自然の美しさを目の当たりにできるのもアウトドアスポーツの楽しみですね。

サーフィンは心も体も緩くなって、時々仕事が手につかなくなることもあるんですが(笑)、スノボの場合は地に足がつく感じというのかな。大地からエネルギーを受け取っている感じがします。海と山それぞれの違いをダイレクトに心と体で感じられるのも楽しいですね。

自然の中に身を置くと感覚が研ぎ澄まされていく

「休みの日にわざわざ海や山に行って疲れないですか?」と聞かれることがあります。もちろん体は疲れるんだけど、心地よい疲れなんです。以前、仕事がものすごく忙しくてしばらくサーフィンに行けない時期がありました。その時は、とにかく肩こりや疲労感がすごくて週に何度もマッサージに通っていたんです。サーフィンやスノボの後もマッサージに行くんですけど、凝り方が全然違うってマッサージ師さんに言われるんですよ。仕事で頭だけ使って溜まった体の凝りはなかなかほぐれないけど、運動をした後の体は筋肉の疲労だからマッサージしたらすぐにほぐれるよって。なるほどなって思いました。

自然の中に身を置いていると思考がどんどんシンプルになってきて、感覚が研ぎ澄まされていく感じがします。それが仕事にも生かされているんじゃないかと思っていて。ファッションの仕事をしていると多くの選択肢の中から一つを選び取らなければいけない場面がたくさんあります。それでも、迷わず「これ」と言える。それは、自然の中で常に好きなものや心地のいいものを頭ではなく感覚で選んでいるから。そんな気がするんです。

「いつまでも楽しく健康で遊んでいたい」がモチベーション

自然の中では人生哲学を学ぶ場でもあると思います。たとえばスキー場にはツリーランという圧雪されていない木々の間を滑走するコースがあるんですが、整備されていないから、地形が複雑で木立を抜けながら滑らなければいけない。木の周りは窪んで落とし穴のようにもなっていることもあるから、うまく避けないといけないし、一度転倒するとふわふわの雪が腰まで埋まってなかなか抜け出せなくなる。とても難しいコースなんです。初めて滑る時、怖がっていたら、友達からアドバイスをもらったんです。
「まず、どうやってゴールするのかコースを思い描くこと。転びたくないと思って、手前の木ばかり見ていると体がそっちに向かってぶつかってしまうから、少し先の木を見ながら滑ること」って。それを聞いた時、人生と一緒じゃん!って思ったんです。

森の中は平坦ではなく、うねりや斜面、段差もあれば、樹木などの障害物もある。人生もその時々でさまざまな壁が立ち塞がっていますよね。障害物にばかり気を取られていると、ぶつかったりする。そして、転んでも自分でうまく立ち上がらないと、穴にはまってなかなか抜け出せない。いやなものばかりに捉われないで、もっと中・長期的な視点で物事を俯瞰してみるとうまく進めるんだなって。生きていく上でもとても大事なスキルを自然は教えてくれる。そして、人間も自然の一部なんだなと改めて実感します。

私は42歳で出産しました。子どもの成長に合わせて、私もできるだけ長く健康でいたいと思うようになりました。一緒にいろんなところへ旅に行きたいし、サーフィンやスノボも楽しみたい。40、50代の友達の中には「この先もまだまだ遊びたいから」と言って毎日筋トレを欠かさない人がいるんです。「遊びたい」っていうモチベーションってすごく大事だと思うんですよ。

休みの日はアクティブに過ごしているけれど、実はぼーっとしている時間も必要だと思っています。毎朝、子供を幼稚園に送り出した後、午前中はソファの上でじっとして動きません(笑)。そこで無意識に頭の中を整理しているんでしょうね。その時間がないとなかなか仕事にも取りかかれないんです。ダラダラすることは全然ダメなことだと思ってなくて、大事な時間だと思っています。

アクティブに遊ぶためにゆるく過ごす時間も必要で、要はバランスなんだと思います。ダラダラし続けてたら体の筋肉が衰えて体を動かすのも億劫になる。遊びたいという欲もダラダラしたいという気持ちそのどちらも否定せず、自分にとって心地いい状態を大事にしたいなと思います。

  • Text/Mariko Uramoto
  • Photo/Yui Sakai
  • Edit/Riku

プロフィール

林 真理子(はやし まりこ)

1976年、鹿児島県生まれ。セレクトショップのプレス、デザイナーを経て2008年に独立。現在は自身のファッションブランド<jonnlynx(ジョンリンクス)>のデザイナー・ディレクターとして活躍中。趣味はサーフィンとスノーボード。

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