Inspiration

2023.10.10

吉川めいさんに聞く、自分軸を育てる書く瞑想「ジャーナリング」のすすめ。

感情をノートに書き出し、自分と向き合う「ジャーナリング」。近年は“書く瞑想”とも言われ、心を整える方法の一つとして注目を集めています。このジャーナリングを15歳から続けているのがウェルネスメンターの吉川めいさん。具体的なジャーナリングの方法を伺いながら、長く続けるコツ、ジャーナリングがもたらしてくれた効果について伺いました。

気づきを促し、自分とつながることを意識する

―まずはジャーナリングとは何か?から教えてください。

「ジャーナル=日誌」で、それが動詞になって「ジャーナリング=書き記す」という意味になります。つまり、日誌をつけるということですね。ただ、近年言われている「ジャーナリング」はその日にあった出来事を記すのではなく、頭に浮かんだこと、自分が思っていることを正直に書く行為を指します。手を動かして書くことで、自分の考えを整理できたり、自分の内面と向き合うことができ、それがメンタルウェルネスにつながると言われています。

─どういう手順で始めたらいいでしょうか?

まずはノートとペンを用意してください。ノートはポケットサイズでも大学ノートでも、罫線が入っていてもいなくても何でも構いません。今日は私のジャーナリングノートの一部を持ってきましたが、本当にバラバラです(笑)。私は携帯やPCなどのデジタルツールに打ち込むよりも手書きをおすすめしています。文字を書いていると感情が出てきやすいと言われているんです。何も書くことがないと思って書き始めても、潜在化していた感情が浮かび上がってきやすくなります。誰かに見られるものではないので、字が汚いとか文章が成り立っていないとかそんなことを気にする必要もありません。ただ、思うがままに書いていけばOKです。

―具体的にどんなことを書いたらいいでしょうか?

自分の内側にあるものを出すことが目的なので何でもいいんです。ただ、漠然としすぎて書きにくいようであれば、夜寝る前に1つだけ問いを立てて書き出してみてください。たとえば「今日、自分の本心と一番繋がれた瞬間はいつでしたか?」と。例えば、誰かとランチを一緒にした時、その人が「ハンバーグにしよう」と言ったけど、自分は「蕎麦を食べたい」と感じたことを素直に伝えることができたとしたら、それは自分の本心と繋がった瞬間なんです。些細なことかもしれませんが、書く瞑想を続けていくことで、自分が本当に思っていることがわかるようになります。瞑想とは気づきを促すこと。自分の心がどこにあって、自分の心と繋がっているかどうかに気づくことです。慣れてきたら、2問目を足してみてください。「今日、自分の本心と一番離れた瞬間はいつでしたか?」。これを書くと一人懺悔室のようになると思います(笑)。この二つの問いに対して思いを書くだけでも、自分は本当は何を感じているのか知ることができます。そして、自分と深く繋がることを意識すると思います。

他にもいろんなテーマで自由に書いていいんです。ここからは私が開発したジャーナリングメソッドを一つの例として紹介しますね。私のメソッドでは3つのプロンプト(問い)に沿って、書き出していきます。一つ目のプロンプトは「今、あなたはどんなことを感じていますか?」。「なんて書いていいかわからなくて困っている」と思ったらそのままを書いてください。「わからなくて困っている」と書き続けていると、ふとした瞬間にそういえば今日こんなことがあってムシャクシャしたとか、悲しい思いをしたとか表面には出てこなかった感情が浮かび上がると思います。そしたら、それを書くんです。プログラムでもお伝えしていますが、この時に大事なのは背伸びしたり、美化したりせず、「ど素直、ど直球、どストレート」に書くこと。ノートの中は誰にも見られることのない自分だけの聖域。取り繕わずに書いてください。ジャーナリングは自分の心を知ることが目的なので嘘をついていたらセラピーになりません。書き出していると「自分ってこんなに思っていることがあったんだ!」と驚くぐらい手が止まらなくなると思います。

次のプロンプトでは「なぜ、そのように思っているの?」と問います。その感情や思いを具体化して書くんです。「自分よりも先に同僚が昇進してムカついている。そのポストは自分がつくはずだったのに」とか「彼にフラれて悲しい。彼と一緒にこの先の人生を歩むはずだったのにどうしたらいいだろう」とか。1問目の感情を支えている理由を書きます。

怒りや悲しみ、不安などモヤモヤとした感情を持ち続けているのは、自分の中に疑いがあるから。感情を支えている理由まで書き出せたら、そこに潜んでいる「本当はこうなるはずじゃなかった」とか「別の選択をしていたら自分はもっと幸せになれたかもしれない」という観念や思い込みが見えてくるはずです。ここまでを2問目でクリアーにします。最後に、3つ目のプロンプトでは「その感情を支えている観念や思い込みを手放したらどう感じますか?」と問います。1分だけでもいいんです。その観念を手放したらどんな気持ちになるでしょうか?

このプロセスの後、さっきまでモヤモヤに支配されていた気持ちが「楽になった」、「軽くなった」という人が多くいます。新しい視点で物事を見るようになったからだと思います。私の「ジャーナリング」のプログラムでは、「自分の思いをアウトプットする」「内省する」「視点を変える」という3ステップで、気づくことを促します。気づく、ということは目の前にある現実を受容することです。

自分の本心とつながると、喜びを感じやすくなる

―吉川さんはオンラインで「書く瞑想」のプログラムをされていますが、多くの人におすすめする理由は何でしょうか?

自分と繋がることを応援したいんです。本心と繋がっていない状態は苦しいと思うから。特に女性は親やパートナー、子供、仕事相手、友達、社会規範に合わせることが当たり前と思っている人が多いですが、ふとした瞬間に「私の人生ってなんだっけ?」と気づく瞬間が来る。迷いを抱えた状態は心地のいいものではありません。人に合わせてばかりではなく、自分は何がしたくて、どうありたいのかと気づくことで、心の喜びを感じやすくなると思います。

―プログラムを受講された方からはどんな声が届いていますか?

毎回本当にたくさんのレビューが届いて、いつも読みながら泣きそうになります(笑)。ジャーナリングによって自分が変わる経験は、髪型やファッションを変えるといった表層的な変化ではなく、もっと別の次元です。これまでずっと苦しんでいたものから解放されるんだと知った時に心が楽になったと気づく人が多いです。私のプログラムに参加されている方は結婚や離婚、不妊治療、病気などで悩んでいる方も少なくありません。例えば「親から結婚を期待されているのにいつまでも結婚しない私ってどうなんだろう」と悩んでいる人もいらっしゃいました。でも、結婚は絶対すべきことではないですよね。社会が作った規範や固定概念を信じなくてもいい。1分でいいからその観念から離れてみると、今まで感じることのなかった感覚が得られます。

―これまでで特に印象的なコメントはありましたか?

手術で臓器を摘出された方のコメントはとても印象的でした。その方は、道ですれ違った人に対して自分にはない臓器があると思うと「羨ましい」と嫉妬を覚えてしまうとおっしゃっていたんですね。私はまず、正直な気持ちを教えてくれてありがとうと伝えた上で、どうしてそう思うのかを聞きました。すると、「自分にはその臓器があるはずだから」と。でも、そう思い続けても臓器がないという現実には勝てません。現実と戦い続けるのは苦しいです。だから「あるはずなのに」ではなくて、視点を変えてみてと伝えました。

ここからは私自身の話と重ねてお話ししますが、私は5年前、最愛の夫を事故で亡くしました。長い間、深く悲しみの中にいましたが、ある時、「この人と一生を過ごすはずだったのに」という観念を持ちながら、残された人生を生きるのかと思ったらこんなに苦しいことはないと気づいたんです。だから、「あの人はいるはずだった」と考え続けることをやめました。一緒に過ごした時間や愛が変わるわけではないですし、「夫を失った私は未完全」だとは思わない。外でパートナーと手を繋いで幸せそうに歩いている人を見ても嫉妬心は生まれません。だから、その方にも「臓器がないあなたは完全体で、臓器があるはずだったのにと思いながら、誰かと比較したり、劣等感を持たなくていいんですよ」と伝えたら、彼女自身の体の付き合い方や人生の見方が変わったと教えてくれました。

一回のプログラムは40分で、その間に劇的な変化を遂げる方もいますが、やはりジャーナリングは続けることが大事だと思います。昨日、今日、明日と継続していくことによって、気分の浮き沈みが激しい生き方から、軸のある生き方にシフトできると思います。

ジャーナリングは人生の補助輪

―続けるコツはありますか?

書く時間を決めておくと習慣化しやすいです。たとえば起床した直後や就寝前など、ひとり静かに集中できる時間がおすすめです。一度のジャーナリングはだいたい5、10分くらいあればできると思います。

―吉川さんがジャーナリングを続けてきてよかったことはなんですか?

やっぱり心の整理ができることですね。以前はモヤモヤや葛藤を抱えがちでしたが、ジャーナリングを続けるうちに、自分のことをよく知ることができ、快適で開放的な状態をキープしやすくなりました。

ただ、誤解なく伝えたいのは、あくまでもジャーナリングはただのツールということです。つまり、こうした気づきを得られたのは自分がいろんな経験をしてきたから。ジャーナリングは人生の補助輪で、自転車に乗って漕ぐのは自分。だから、ジャーナリングによって自転車を漕ぎやすくしているイメージです。

ジャーナリングを始める時には、気持ちのスイッチに香りのアイテムもおすすめ

─ジャーナリングを続けていると「軸のある生き方にシフトできる」ともおっしゃっていましたね。

はい。例えば、生長中の植物は支柱に蔓(つる)を張りますよね。人も同じように幼い頃は親や先生などを頼って成長します。けれども、いつまでも他人に依存しつづけると一人で立つことが難しくなる。自分の軸を持ってないと、生きにくくなる。私は、自分の人生を生きるということは自分で立つ、自分で考える、自分で決める、選ぶということだと思っています。ジャーナリングを続けていると、自分軸を育てる助けになるんです。

―自分軸を育て、自分に意識を向けることは「セルフラブ」の話ともつながりそうですね。

そうですね。セルフラブというと、ゆっくりお風呂に入るとかマッサージに行くという人もいますが、それはセルフケア。自分を癒す時間が必要な時もありますが、そういった表層的なことではなくて、「セルフラブ=自分を大事にする」ということはもっと奥の方にあるはず。たとえば、ちょっと気になる人がいるとしますよね。それがミュージシャンだったら、曲を聴いたり、ライブに行ったり、インタビューを読んだり、その人のことをもっと知ろうとすると思います。それを自分に対してすることがセルフラブだと思うんです。つまり、自分に興味を持って知ること。それをしないで、気晴らしや気休めばかりしていても本質から遠のいてしまう。自分を知ることが自分を愛する第一歩になると思います。

  • Text/Mariko Uramoto
  • Photo/Yui Sakai
  • Edit/Riku

プロフィール

吉川めい

Veda Tokyo主宰、ウェルネスメンター。日本で生まれ育ちながら、幼少期より英語圏の文化にも精通。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児などを経験する中で、13年間インドに通い続けて得た伝統的な学びを日々の生活で活かせるメソッドに落とし込み、発信。日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格者であり『Yoga People Award 2016』ベスト・オブ・ヨギーニ受賞。adidasグローバル・ヨガアンバサダー。

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