Exercise

2023.06.08

眠りの研究員が教える、
健康につながる眠りの秘訣

世界一の寝不足大国と言われている日本。慢性的な睡眠不足を感じている人は少なくないのではないでしょうか。日中、起きて活動している時間は睡眠の質によって決まるとも言われており、長期間睡眠不足が続くと心身の不調をもたらします。では、どうやったら心地よい眠りを得ることができるのでしょうか?日本を代表する老舗の寝具メーカー〈西川〉の日本睡眠科学研究所に在籍する安藤翠さんに寝具選びや環境づくりのポイントを伺いました。

いかに快適に生きるために眠るか

―日本人は平均睡眠時間が短く、睡眠に悩んでいる人も多いと聞きました。

そうですね。特に寝つきが悪いと悩まれている方は多いです。日本人は忙しい人が多く、そういう人ほど睡眠時間を削りがちです。また、充分な睡眠時間を取っていても、心身の疲れが取れていなければ、日中の活動に影響が出ます。そうした睡眠にまつわるさまざまな悩みを解決するために、日本睡眠科学研究所では各分野の専門家たちとともに、科学的に「いい眠り」について研究を重ねています。その検証結果を寝具開発に活用し、快適な眠りを提供するのが我々の役目です。

―「いい眠り」とは何でしょうか?

いい眠りとは、「質」と「量」が十分な状態と考えます。質の良い睡眠には主に3つのチェックポイントがあって、入眠がスムーズであること、深く眠れたと実感すること、そして目覚めがすっきりしていることです。

逆に布団に入ってから30分以上眠れないとか、途中何度も起きてしまうとか、特に午前中や夕方に耐えられない眠気があるといった場合は質の良い睡眠が取れているとは言いにくいです。また、見落としがちなのは、5分以内にすぐ寝てしまうこと。気絶するように寝てしまう場合も慢性的な睡眠不足の可能性があります。

今回お話を伺った、日本睡眠科学研究所で働く安藤さん

―そもそも、どうして人は睡眠が必要なのでしょうか?

4つの理由があると言われています。一つは身体のメンテナンス。睡眠中に分泌される成長ホルモンは身体の機能修復や疲労回復効果があり、皮膚の形成や代謝を盛んに行います。二つ目は心の休息。レム睡眠中は扁桃体(へんとうたい)の活動が活発になるため、日中に感じたさまざまな感情やストレスを和らげる効果があると言われていて、寝ることでメンタルバランスを整える効果があります。三つ目は頭の整理。記憶を固定・強化・保持することも睡眠の大事な役割です。最後に免疫力の維持。睡眠中は副交感神経が優位になることで、免疫機能に関わるリンパ球が増え、免疫力が維持されます。つまり、快適に生きるために睡眠が必要なんです。

―睡眠時間はどれぐらい取ると良いのでしょうか?

個人差がありますが、寝付いてから目が覚めるまで、中途覚醒を除いて大体7〜8時間睡眠が取れているのが理想と言われています。

―1日の3分の1を睡眠に充てると思うと、食事や運動に気を使うのと同じくらい意識を配りたいですね。

おっしゃる通りです。心身の回復もそうですし、美容やダイエットの面からいっても睡眠はとても重要です。どれだけ食事や運動に気をつけていても、その効果を発揮するかは眠りによって決まると思います。睡眠中に分泌される成長ホルモンは肌のターンオーバーを促してバリア機能を高め、肌の状態を健やかに導きます。また、“よく寝る人は太りにくい”と言われていますが、私たちの研究でも、眠りを改善すると腸内のいわゆる“ヤセ菌”が増えることが明らかになりました。食欲をつかさどるホルモンのバランスも睡眠により左右されるので、睡眠をしっかり取ることは肥満防止につながります。さらに、睡眠中に筋肉が作られるので、筋力増加や体型維持の面からもとても大事。食事、運動にプラスして睡眠にも気を配るとさらに効果が高まると思います。

寝る2、3時間前の過ごし方が“良い眠り”を作る。

―良い睡眠を取るために日中の過ごし方で気をつけるべきことはどんなことですか?

たくさんあるのですが、毎日同じ時間に起きることや同じ時間に食事を取ることが体内時計の乱れを防ぎます。朝起きたら日の光を浴びると、体内時計がリセットされやすくなります。適度な運動も大事です。寝つきが良くなり、深い睡眠が取れるようになります。わざわざジムに行かなくても、階段を使ったり、一駅分歩くだけでも効果があります。また、仮眠を取ることも推奨しています。毎日きちんと寝ている人でも昼過ぎに眠気が出てきます。これは生理現象なので、仮眠を取ることに罪悪感を感じなくていいんです。眠気に抗って仕事や家事を続けるよりも、30分以内の仮眠を取ることで、心身の疲れが取れ、午後も高いパフォーマンスを維持しやすくなります。昼夜のメリハリができ、夜の眠りの質が良くなることも期待できます。デスクで寝る場合はクッションを使うなど、体や顔に負荷がかからないようにするといいですね。そして、睡眠の質に一番影響するのは寝る2、3時間前の過ごし方です。ここでの状態が睡眠の質にほぼ直結します。

―どのように過ごすとよいのでしょうか?

身体や脳を覚醒させる行動を控え、リラックス状態でいることがベストです。人によってリラックスできる環境は違うので、自分なりの”入眠儀式”があると良いですね。刺激を受けるスマホを見る時間も減らすと良いですが、難しい場合は何かをプラスすることで、リラックス状態を作ることができます。たとえば、白湯やハーブティーなど温かい飲み物を飲んだり、寝る1時間半前ぐらいにぬるめのお湯に入っておくと寝つきが良くなります。いわゆる”寝酒”は入眠を促進することもありますが、眠りが浅くなり、依存度も高くなるので寝る直前に飲むのは控えてほしいです。私のおすすめは、寝室を究極のリラックス部屋にしてから、お風呂に入ることです。落ち着いた光、おだやかな音、好きな香りにしておくことで、入浴後に寝室に入ると自然とおやすみモードになります。特に香りがポイントで、嗅覚は鼻から直接脳に作用するので、リラックス効果を生み出しやすいです。

―香り選びのポイントは?

ラベンダーなどリラックス効果があるもの、かつ、自分の好みに合う香りをおすすめしています。科学的にいいとされていても好きじゃない香りはストレスになるので、両方を叶えたものがいいですね。ピローミストであれば就寝前に枕に吹きかける事で自然と就寝環境が整い、寝つきが良くなります。私も普段からピローミストを愛用しているんですよ。

日本睡眠科学研究所が発行する社内用の資料。ここには、快眠のためのたくさんの研究成果がまとめられていました。

快眠のために知っておきたい環境づくり

―寝る環境についてはいかがでしょうか?

室内の温度は夏は28度以下、冬は10度以上の範囲内であれば、寝具の組み合わせで快適な環境がつくれます。季節や寝室の環境に応じて布団の種類や素材を組み合わせてください。また、これからの暑くなる時期は寝苦しい日が続くので、エアコンはつけたままにすることも推奨しています。その際、直接風が当たらないようにすることがポイントです。

眠る時の明るさは0.3〜1.0ルクス程度のほんのり何かが見える程度の明るさが好ましいとされています。光源が直接目に入ると眠りを妨げるので基本的には消灯するのが望ましいですが、真っ暗だと逆に不安になるという方は足元灯や間接照明などで1.0ルクス以下の環境が作れれば問題ないと思います。私も真っ暗だと目が冴えてしまうので、寝室に間接照明を取り入れているんです。

―寝具についてはどうでしょうか?

自分の体型や体質に合った寝具を使うことがベストです。体格や体質、寝る時の癖によって合うものが異なるので、一度きちんと測って自分に合ったものを選んでみてほしいですね。寝具が合っていないと体に力が入りやすくなり、睡眠の質が低下します。特にマットレスや枕の影響は大きいです。

人は直立した時、背骨は緩やかなS字カーブを描きますが、寝ている時もこのS字カーブを維持することが理想とされていて、マットレスはその形作りのサポートをします。マットレスが固すぎると体の凸の部分に体重がかかって寝返りが増え、眠りが浅くなりますし、反対に柔らかすぎると腰が深く落ち込んで不自然な体勢のまま眠るので、腰痛の原因にもなります。

西川で開発しているマットレスには体のS字カーブに沿って体圧を分散させてくれる凸凹構造のものがあるのですが、就寝中の体の負担や血行妨害を緩和して、寝返りをスムーズにできるようにしています。マットレスの内部構造もさまざまで、年齢や体格によって適したものは変わります。また、枕は首の骨と敷き布団の隙間を埋める役割があり、自分の首や頭にフィットするものを選ぶことが大切です。汗をかきやすい人は洗える枕だとよりいいですね。

西川の開発するマットレスの内部構造

―就寝中、首にシワが寄らないように枕を使わない人もいると思うのですがどうでしょうか?

どこかしらに凝りや痛みが生じやすいのでおすすめしません。自分の頭や首の高さにあった枕であれば首にシワはできにくいはずです。実は枕を正しく使えていない人も多いんです。枕に頭だけ乗せているのは誤りで、しっかり首の付け根まで載せることが大事です。なので、お使いの枕でも頭を置く位置を変えることでフィット感が変わり、凝りや痛みを緩和できるかもしれません。また、西川では美容睡眠に特化したブランド「newmine(ニューミン)」も展開しています。スキンケアの発想で、肌や髪に優しい枕や肌質に応じて選べるまくらやピローケースを開発しているんです。睡眠は毎日のことなので、肌や髪への負担を少しでも減らすことで、眠りと美容の向上につなげたいと思っています。

―寝る時の衣類についてはどうでしょうか?

綿や麻、シルクなどきちんと汗を吸ってくれるのが必須条件ですね。もこもこしたポリエステル素材は吸水性があまりないものが多く、蒸れやすいので避けた方がベター。寒い場合は布団で温度調整をするのがいいですね。また、家庭用温熱電位治療機「ヘルシオン」という体の深部から温め、血行を促す機器もあるので、こういったものを取り入れるのもおすすめします。

―睡眠について知らないことがたくさんあって勉強になりました。

私たちは睡眠について様々な角度から研究をしていますが、そもそも人はなぜ眠るのか?といった根本的な問いに対する答えはまだ出ていないんです。寝ている間に分泌されるホルモンによって心身に良い影響があることなどはわかっているのですが、寝ないと生物は死んでしまうという根拠については完全に解明されていません。個人的にはそういった謎が多いからこそ、面白いと思っていますし、研究を重ねることで新たな発見がある。そして、そこで得た研究結果を生かして、たくさんの人の眠りを整える手伝いができたらと思っています。

  • Text/Mariko Uramoto
  • Photo/Yui Sakai
  • Edit/Riku

プロフィール

西川株式会社

1566年、初代仁左衛門が蚊帳・生活用品販売業として創業。1887年より布団の販売業を始める。スポーツ選手にも愛用者が多いコンディショニング・ギア[エアー]、パーソナル・フィッティングブランド「&Free」、睡眠環境改善のアドバイスを行う「ねむりの相談所®」など数多くのヒット商品を生み出すほか、「日本橋 西川」などでは店頭で寝具測定サービスも行っている。

日本睡眠科学研究所

日本睡眠科学研究所は、人間の睡眠生理の解明やより良い睡眠環境の開発を目指し、寝具業界としては先駆けとなる研究所として、1984年に設立しました。企業・大学・研究機関とも協力して様々な研究活動を推進。その結果は、西川の数々な画期的な寝具や寝環境の開発に活かされ、睡眠の質の向上に貢献しています。

記事内で紹介された商品

All Articles

Category