Inspiration

2022.09.08

我慢しない、100点をめざさない。〈whyte〉浜本忠勝の自然体の生き方。

「We live better. より自然体に生きていく」をコンセプトに掲げるヴィーガンビューティーサロン&カフェ〈whyte〉(ホワイト)。その代表であり、美容師の浜本忠勝さんは、サステナブルな観点から、自然体な生き方を実践しています。では、浜本さんが大事にしている“自然体に生きる”とはどういうことでしょうか?他者や環境と関わりながら、自分らしく心地よく生きるためのヒントを伺いました。

“楽しい”、“気持ちいい”。ポジティブに伝えた方が届く。

─〈whyte〉のサロンでは自然由来の薬剤やプロダクトのみを扱うヴィーガンヘアサロンとして知られていますが、ヴィーガンをテーマにしたきっかけは何でしたか?

昔から仕事でNYに行く機会がたびたびあって、街中にヴィーガンカフェが当たり前にある光景を見てきました。日本はヴィーガンというコンセプト自体なかなか浸透しないですよね。食事は難しくても、美容からのアプローチだったら日本でも受け入れてもらいやすいのではと思い、ヴィーガンをテーマにしたビューティーサロンをオープンしました。

─ヴィーガンのヘアケアプロダクトのみを使うのはハードルが高いのでしょうか。

サロンがスタートした4年前はもう少しプロダクトの選択肢は狭かったですが、今は企業努力もあって、優秀なアイテムが多く増えています。きれいに発色するカラー剤、髪質を改善するシャンプーなど。環境や動物に配慮したアイテムを使ってきれいになることは、負担や我慢も強いられずに叶うと思っています。

─ヴィーガンという言葉はとてもキャッチーですが、サロンのコンセプトにはあえて入れず、「自然体に生きる」と掲げています。その理由は何でしょうか?

ヴィーガンは“ストイックで我慢がつきもの”と思われがちです。だから、まずはポジティブな形で届けようと思いました。ポジティブな伝え方は、誰も嫌な思いをしないと思います。「ヴィーガンじゃないとダメ」ではなくて、「楽しい」とか「気持ちいい」とかよいイメージの方が伝わりやすい。
僕が一番伝えたいことは、ヴィーガンというコンセプトよりも、自分にも環境にも負担をかけないナチュラルなライフスタイルです。それを考えた時に「自然体に生きる」という言葉が思い浮かんで、とてもしっくりきました。自然体な暮らしとはどういうことか、その心地よさを〈whyte〉での体験を通じて知ってもらえたらと思っています。

ジェンダーレス、ボーダーレスに集える場所。

―カフェを併設した理由は何でしょうか?

〈whyte〉は意識の高い人だけではなく、間口の広い場所でありたいし、ヘアスタイルだけでなくて、ライフスタイル全体を提案したい。だから、カフェを併設して、気軽に立ち寄れるようにしました。

─ヘアサロン、カフェともに朝8時からの営業と聞いて驚きました。

NYには朝7、8時から営業しているカフェが多く、その雰囲気がすごく好きだったんです。日本では朝早くオープンするカフェはありますが、美容室だとまだ少ない。仕事前に来られる方も多く、早い時間の方がすぐに予約が埋まります。普段は仕事が朝8時にスタートして、終わるのが夕方4、5時頃。アシスタントはそこから休憩して、残って練習することもありますがそれでもみんな遅くない時間に帰ります。普通の美容室だったら終電間際に帰る人も多いですが、うちは完全朝型ですね。

whyteのカフェで販売中のヴィーガンドーナツ「VENUTS」

─とても健康的ですね。〈whyte〉をオープンして気づいたこと、変化はありましたか?

原宿にあるヘアサロンというと、若者が来るイメージを持たれがちですが、ここでは年齢、ジェンダー、国籍問わず、お客さまの層が本当に広く、ボーダーレスに来ていただけるのが嬉しいです。また、接客業は政治の話はタブーだと思いこんでいたのですが、お客さまの方から政治について話してくださる方もいて、勉強になるし、意見交換の場にもなっています。もちろん政治以外にも環境や動物愛護などお客様から教えてもらうことも多く、それがよい刺激になっています。僕からスタッフに強制することは決してないですが、いつもペットボトル入りの飲み物を買っていた子が自然とマイボトルを使うようになったり、ヴィーガンフードを取り入れるようになったりと、習慣が変化しているのを見ると嬉しくなります。

完璧をめざすよりも、自分にとって心地よいことを。

─持続可能な暮らしを実現するにはどのような意識を持つといいと思いますか?

ポイ捨てしない方がいい、プラスチックは減らした方がいい。頭ではわかっていても、それがなぜ必要なのかわからない人もいると思います。問題の根本を理解しないと、何から始めたらいいのかわからないし、長続きしません。たとえば、ゴミ箱がないからポイ捨てする、とか、安いからペットボトル入りの水を買うとか、楽な方へ流れてしまう。行動を変えるには、問題の根本を知ることが大事だと思います。難しい本を読まなくてもドキュメンタリーを見るだけでも十分だと思う。僕は環境問題や動物愛護に関心があるので、そういった分野のドキュメンタリー作品をNetflixでよく観ています。ぜひ見てほしい作品は、「my octopus teacher(邦題:オクトパスの神秘:海の賢者は語る)です。

─環境のため、動物のため、人のため、とは思っても、自分に余裕がないとできないこともありそうです。そこはどう考えますか?

まさにその通りだと思います。だから、僕は「我慢しない」ことを大事にしています。自分に負担がかかると、楽しくない。ヴィーガンに取り組もうとする人の中には “動物性の食事を摂ってしまった”と落ち込む人がいますが、完璧をめざさなくていいと思う。これはできなかったけど、あれはできるからやってみようとか、それぐらいの感覚で。ヴィーガンに限らず、できていないことに罪悪感を抱くのではなく、自分にとって心地のよい範囲で行動することが大事だと思います。

─我慢しないことが、持続可能な社会につながる?

はい。無理して心もからだも疲弊してしまったら続かないですよね。それに、自分に余裕がなくなると、視野が狭く、排他的になる。人の習慣や態度、考え方に対して否定から入れば、意見が噛み合わないし、伝えたいことが伝わらない。それが一番もったいないと思います。

─だから、“ポジティブに伝える”ことを大事にされているんですね。

そうですね。「カフェのメニューはヴィーガンにこだわってつくりました」と熱っぽく語るより、「これ、おいしいから食べてみて」とおすすめしたものが受け入れてもらいやすい。ヘアケアのプロダクトに関しても同じで、洗い心地がよいとか、香りがよいとか、パッケージが可愛いとか、そういうことの方が人にも勧めやすい。アスレティアの製品にも同じことを感じています。僕自身、テクスチャーや香りの良さに惹かれて普段から使っているのですが、プロダクトの良さが入り口になって、それから“どういう思いで作られているんだろう”とか、“クリーンビューティってなんだろう”と考えるきっかけになるのかなと思います。

─ヴィーガンをテーマにしたヘアサロン&カフェを運営し、新しいスタイルに挑戦している浜本さんですが、今後やりたいことはありますか?

いつか海外進出できたらと思っています。住む場所や育ってきた環境で価値観は変わるので、そういったいろんな考え方に触れてみたいですし、海外の面白いアイデアやコンセプトを日本に持ち帰ってこれたら。日本の美容業界のために!という強い使命感はあまりないですが(笑)、美容の分野で、自然体でいることの心地よさをもっと伝えていけたらと思っています。

  • Text/Mariko Uramoto
  • Photo/Yui Sakai
  • Edit/Riku(REING)

プロフィール

浜本忠勝(はまもとただかつ)

1991年神奈川県出身。国際文化理容美容専門学校卒業後、東京・原宿の美容室に勤めながら、海外コレクションでヘアメイクなどを担当。2018年、原宿に「whyte」をオープン。心も体もサステイナブルに、より自然体に生きていくためのライフスタイルをさまざまな形で提案している。