Inspiration

2022.07.08

「“幸せ”はどこにある?心地よく自分らしく生きるマインドセット」坂入洋右×栗山遥対談。

“セルフラブ”をテーマに語りあってきた、健康心理学の専門家・坂入洋右さんと、ヘルシーコンシャスなライフスタイルに共感が集まるヨガインストラクターの栗山遥さん(前編:「ゆらいでももとに戻れる“私”のつくり方」坂入洋右×栗山遥対談)。心とからだのあり方を追求するふたりが、それぞれの道へ進んだきっかけを紐解いていくと“幸せ”というキーワードに辿り着きました。生き方が多様化する時代。どうすれば自分らしく、幸せに生きられるのか。ふたりが日々大事にしている小さな心がけを教えてもらいました。

幸せは“なる”のではなく、“気づく”もの

─ 坂入さんは健康心理学や身体心理学を専門に、心とからだの結びつきを研究されていますが、どういった経緯で今の道に進まれたのでしょうか?

坂入:学生の頃から“幸せになる方法”に興味があって、大学院時代の研究テーマにしました。でも、研究しているうちに違うなって気づいたんです。幸せに決まった定義があるわけではありません。日本は世界幸福度ランキングでいつも最低ランクにいるけれど、十分幸せな環境で暮らしているはずなんです。でも、一定以上の収入が増えたところで、安全な場所にいようが、いくらお金を持とうが、幸福度は上がらない。なぜなら、一人一人、幸せの形は違うからです。薬で病気を治すように、“こうしたら必ず幸せになる”といった一般法則は存在しないんですね。だから、大事なのは、幸せになる方法ではなくて、幸せに気づく方法だと思ったんです。

栗山:私もそう思います。ヨガのクラスでは、自分とつながることを意識しようとお伝えしていますが、それは自分にとって何が心地よいか、何が幸せかに気づくきっかけになるからです。誰かと比べて、その差で自分の幸せを測るのはもったいない。誰かと比べたままでは、欲しいものを手に入れても、また別の欲しいものが出てくる。もっとお金が欲しい、もっときれいになりたい、と思い続ければ、いつまでたっても自分は満たされないし、幸せは感じられない。

坂入:そうですよね。栗山さんがそう思うようになったのは何かきっかけが?

栗山:幼い頃は、まわりの人と比べてすごく苦しかったのですが、ヨガに出会ってから、考え方が変わり、今あるものだけで十分だと気づきました。結局、豊かさや幸福感は自分の内側から味わえるかどうかだと思うんです。誰かが自分を幸せにしてくれるわけではないし、お金で幸せが買えるわけでもない。私は、今の自分にとても満足していますが、それはお金をたくさん持っているからではなくて、内側から幸福を感じられているからだと思います。だから、常に意識しているのは感謝。どんなに小さなことでもすべてありがたいなっていつも思うんです。

坂入:本当にそうですね。上をめざすといつまでたっても不平・不満ってなくならないけど、自分の現状を正しく見ると、思っているほど悪くないから、大概は満足できる。そして、自分ができないことは諦める、任せる、委ねることも重要なんです。そうすると、うまくいくことが増えて、自然と感謝の気持ちが芽生える。

─ それはどうしてでしょうか?

坂入:自分で一生懸命頑張ったことは自分の手柄としか思えないけど、人に委ねたものがうまく行くと、ありがたいと思える。逆にいうと、世の中のことって自分ではコントロールできないことがほとんどなのに、無理にコントロールしようとするから不満が多くなる。コントロールできること/できないことを見極めること。仏教で欲望をネガティブに考えるのは、コントロールできない欲望のことなんですよ。

栗山:欲望はコントールできないものなのですか?

坂入:コントロール可能な欲望は持ってよいですよ。健康になりたいと思ったら、バランスのよい食事を摂ったり、運動したり、ある程度コントロールはできる。でも、他人はどうにもできないでしょう?ああしてほしい、こうしてほしいと願っても、思い通りにならないから、イライラするし、悲しい気持ちにもなる。相手に委ねて、見守るだけ。それで、自分が思っていた方向に物事が進むと、感謝の気持ちが生まれやすい。

栗山:たしかに。天気やコロナもそうですよね。一人の努力ではどうにもできない。そういった外的要因に不満を感じてもしょうがないから、コントロールできないことに自分の幸福を預けるんじゃなくて、自分の内側をみつめて、心地よいバランスを探していく。

坂入:そうそう。自分ができることはしっかりやって、できないことはスルーする。こういうことを繰り返していくと、行きたい方向に進めるようになる。目標と今の自分との距離が遠ければ、実現するまで時間はかかるけど、くじけなくてよい。現状を正しく知って、一歩ずつ進むしかないとわかっていれば、おのずと満足と感謝の気持ちが生まれてきます。

落ち込んでも大丈夫な考え方を身につける

─ 自分の声に正直でいたくても、外的にコントロールされてしまいそうになることはありませんか?たとえば、やりたくないことをどうしてもやらなきゃいけない時、おふたりはどうしていますか?

坂入:逃れられないことってありますよね。僕もやりたくないことはいっぱいあります(笑)。でも、本人に能力があるんだったら、出し惜しみせずにやればいいと思う。ただ、仕事が嫌でしょうがなかったり、環境になじめなかったり、あまりに辛くて、自分の心身が限界になりそうだったら、しなくていいと思います。会社を辞めたり、住む場所を変えたり、最悪な環境から脱するなど、自分でコントロールできることを探してみる。すると、よくなる可能性が高い。そう考えると、できないことってほとんどないですよ。

栗山:私は大学生の時、就活に意味を見出せなくて、どうしてもやりたくなかったんです。まわりの子は“当たり前”にやっていて、「私、本当にこれでよいのかな?」とすごく不安だったけど、当時興味を持ったヨガの道に進んだことで、今の自分につながりました。あの頃は苦しかったけど、振り返ってみれば自分と向きあうきっかけができた。辛い経験でしたが、必要なことだったと思います。

坂入:長い目で見れば、不幸は悪くないんですよね。人間の幸せって絶対値ではなくて、変化量なんです。つまり、ダメな時があった方が、強い幸福を感じられる。サウナだって、ものすごく熱いところから水風呂に入るという過酷な状況から解放されることで、ものすごい快感を感じられる。ずっと適温で暮らしていたら、あそこまでの快感は得られない。

栗山:人間万事塞翁が馬ともいいますよね。一見悪いと思えることがよいことにつながったり、その逆もある。幸か不幸かは容易に判断し難い。

坂入:そうですね。不幸な状況からそのまま沈みっぱなしになるか、這い上がれるかは、自分が置かれた現実を見て、やるべきことをやれるかどうかなんです。絶望の淵から少しでも上がれたら、それだけでものすごく幸せだし、感謝できる。辛くても、絶望したり、自暴自棄になったりしないで、なすべきことをするしかない。すごくシンプルなことだけど、どん底にいる時は、そんなこと素直に思えないんですよね。だから、東洋の人は何千年も前から、ヨガや瞑想をして、心のトレーニングをしていたんだと思います。ふだんからそういった行動習慣を取り入れて、“落ちても大丈夫”な考え方を身につけておくと便利なんです。

人はそれぞれ違う。幸せの形も違う

坂入:なかなか原稿が進まなくて「今日もダメだ」と思うことがあります。そんな時、自分のからだに注意を向けて、心臓の鼓動を感じていていると、「原稿はサボったけど、僕の心臓は生まれてから一度もサボってなくてすごい!えらい!」って思える。心臓が動いてるだけで、すごいこと。でも、人間は普段そんなこと自覚できない。だから、ヨガや瞑想をして、自分の呼吸やからだを感じて、すごい!って感じるんです。どんなに精巧なロボットやコンピュータよりも複雑な存在がここにあって、しかも、うまく動いている。そう思うと、必死に論文を書いたり学会で偉くなったりすることが小さなことに思えてくる。

栗山:私も大きな海に浮かんでサーフィンをしているとよく思います。いろんなことがすごくちっぽけに思えてきます。

─ では最後に。おふたりにとって、幸せとはどういう状態ですか?

栗山:誰かと比べずに、あるがままの自分を好きでいられて、今の状況に感謝の気持ちを持てる状態ですね。私は「豊かさは感謝の気持ちなしには存在しない」という言葉が好きで、まさにそうだなと思って日々生きています。そして、人はそれぞれ違って、幸せの形も違う。“世間一般”とか“普通はこうあるべき”といった規範にとらわれずに、自分は何をしている時が幸せかどうかを感じて、その気持ちに素直にいられると幸せだと思います。

坂入:私が考える幸せって、二つあるんです。ひとつ目は社会の幸福で、みんな違ってみんなよいという考えが尊重されること。日本は欧米と違って集団優先ですが、本来一人一人違う役割がある。それなのに、個人同士で競争させられたら疲弊してしまう。だから、一人一人違うという考えを尊重して、それぞれ自分らしさをフルに発揮すれば、現代の日本社会はもっと幸せになれると思う。そして、二つ目は、自分の幸せ。これは自分をメンテナンスして、心身のコンディションを整えることで得られる。そうやって、自分を大切にできると、他人も環境も大切にできて、より幸せを感じられる。人間って、自分だけじゃなくて、誰かが幸せになってくれる方が何倍も幸福を感じられるんです。幸せの状態は、“大切にする”という気持ちと行動の先にあるものだと思います。

Text/Mariko Uramoto
Photo/Jeremy Benkemoun
Edit/Yuri Abo(REING)

プロフィール

栗山 遥(くりやま はるか)

ヨガインストラクターとして活躍するほか、SNSやメディアを通して、ヘルシーなライフスタイルを発信。自然体なファッションやオーガニックビューティーをはじめ、同世代を中心に支持を集める。

坂入 洋右(さかいり ようすけ)

筑波大学体育科科学系教授。臨床心理士。健康心理学、身体心理学を専門に研究。“心身の状態や機能を本来の姿に戻す”アスレティアのブレスメソッドの監修も行う。

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