Inspiration

2022.07.08

「ゆらいでももとに戻れる“私”のつくり方」坂入洋右×栗山遥対談

近年、“セルフラブ”という言葉をよく耳にするようになりました。“自分を愛そう”“自分を大切にしよう”という意識は世の中で高まっているものの、何をしたらよいのかよくわからない、なんとなくできないことがプレッシャーに感じるという人は少なくありません。自分を大切にするってそもそもなんでしょうか?今回は健康心理学の専門家・坂入洋右さん、ヨガやサーフィンなどヘルシーなライフスタイルを通じてウェルビーイングな生き方を追求する栗山遥さんに、セルフラブとは何か、自分を大切にするためのアイデアを教えてもらいました。ふたりの会話の中には、アスレティアが掲げる “アクティブでしなやかな生き方”に近づくヒントがつまっていました。

一日のうち、せめて30分はわがままに。

─ おふたりは、“自分を大切にする”ってどういうことだと思いますか?

栗山遥(以下、栗山):私は、自分に素直でいることかなと思います。本当は何をしたいのか、どこにいたいのか、どうありたいのか。心の声と行動、状態が伴っていることが、自分を大切にすることかな、と。

坂入洋右(以下、坂入):もともと日本は集団優先文化だから、セルフラブ=自己愛ってあまりよしとされてこなかったんですよね。でも、自分を後回しにし続ければ、自己肯定感が低くなり、幸せを感じにくい。要は、どちらに偏っても良くないんです。大事なのは、“自分を”というよりも、“大切にする”という考えだと思います。セルフラブとは本来、自分だけじゃなく、他人も環境も全部大切にするという意味がある。ただ、自分のことをあまりに蔑ろにすると、まわりの人や環境を大切にするゆとりは生まれない。だから、自分を後回しにしがちな人こそ、まずは自分を大切にすることから始めるとよいと思いますね。

栗山:そうですよね。日本人は頑張りすぎる人が多いように感じます。

─ おふたりは自分を大切にするためにしていることはありますか?

栗山:私は、ヨガを通じて心とからだのセルフケアをしたり、瞑想したり。海に入っていると心地がいいので、サーフィンも自分を大切にする時間になっています。

坂入:僕は1日3回、自律訓練法(*1)を欠かさずやっています。1回5分〜10分、歯磨きをする感覚で自分の心理状態の変化を測るメソッドで、これを習慣化すると、心身を整えることができて、不調を感じにくくなったんですよ。特に、子育て中のお母さんや仕事が忙しい方は、自分を大切にする時間がゼロになっている人が多いですよね。24時間のうち、せめて30分ぐらいは自分のための時間を作ろう、わがままになろうというのがこのメソッドの目的です。自律訓練法じゃなくてもよいですよ。毎日のスキンケアを自分を大切にする時間だと思って、ゆっくり丁寧にするとか。

─ スキンケアをしながら、自分の心とからだを確かめる感じでしょうか。

坂入:そうそう。大事なのは、その確かめ方なんです。たとえばスキンケアをしながら「○○さんみたいにもっときれいになりたい」とか「太ってるからもっと痩せないと」って思いながらやっても、ただ落ち込むだけ。そんなことは思わなくてよくて、“そのまま”を見ればよい。

─ “そのまま”を見るとは?

坂入:今の状態を正しく知ること。「もっとよくなりたい」と思い始めると、足りない部分やできないことにばかりフォーカスして、スキンケアの時間がストレスになる。

栗山:誰かと比べるのではなく、自分と向きあうということですよね。

坂入:そうです。「肌の調子が悪いのは、睡眠時間が少なかったからだな」と思うだけで、無理にコントロールせず、モニタリングする。これがポイント。近年、普及しているマインドフルネスという言葉は日本語訳がとても難しいのですが、僕は「見守る」というのが正しい定義かなと思います。肌も一緒で、普段からちゃんと見てあげて、無理やり変えようとしない。

栗山:“見守る”ってすごくしっくりきます。ヨガも完璧なポーズを取ることや、スレンダーな体型になることが目的ではなく、からだや筋感覚を使いながら、呼吸への意識やからだの感覚へ集中することが大事。だから、私はヨガを通じて自分を見守っているのかなって。

坂入:きっとそうだと思いますね。

どうにもできないことは、コントロールしない

─ 悪い状態の時、無理によい方向に持って行くのではなくて、そのまま見守ればよいのしょうか?

坂入:ただ、見守ればよいというわけではないんですよ。仏教には“四聖諦(ししょうたい)”という言葉があって、これは自力でコントロール可能なものと不可能なものの区別を明らかにするという考えです。肌の改善のために夜更かしをやめたり、脂っこい食事を控えたり、そういうことはコントロールできますよね。でも、骨格とか肌質とか、自分ではどうにもできないものがある。それはそういうものなんだと思って、コントロールしようとしない。

─ きちんと線引きをするということですね。栗山さんは調子の悪い時にしていることありますか?

栗山:自分が今どんな状態にあって、どういうことを欲しているのかを考えます。心が沈んでいるのか、体力が落ちているのか。その状態に応じて必要なことをします。

坂入:そうそう。からだの不調は“休め”っていってるサインだから、きちんと休めば何の問題もないんです。でも、「今休むと仕事に支障が出る」とか、「家の中が回らなくなる」とかそういった二次的な問題の方が大きいから、多くの人は休めない。真面目な人ほど、休むべきところで自分を後回しにしてしまう。そうならないためにも、日頃から自分の体調を正しく知って、“これ以上無理するとよくない”と気づけるかが大事。調子のよい時が80点だとして、今は60点だから仕事の時間を短くしようとか、40点だからからだの回復を優先してしっかり休もうとか、正しく判断できる。

私たちには“メンテナンス”の時間が必要

栗山:私は、もともとからだを動かすことが得意ではなかったのですが、ヨガをした後に頭がすっきりする感覚や、ヨガの哲学そのものに惹かれました。自分の内側に意識を向け、心地のいいところを大切にする。毎日を生きやすくするツールだと思います。

坂入:ヨガはポーズに意味があるのではなくて、その過程に意味があるといわれていますね。

栗山:そうなんです。たとえば、ものすごく難易度の高いポーズは、ヨガを何年もやってる人にとっても難しいのですが、からだが柔軟な人だったら簡単にできることがあります。でも、ポーズを取っただけでは、大切なコアの部分が抜けた状態で意味がない。そこに至るまでの呼吸への意識や感覚への集中といった気づきの部分が大事だから。

坂入:よくわかります。ヨガの目的は、自分の身体データを脳というスーパーコンピュータに送り込むこと。それをなぜするのかというと、いろんなポーズをとることで、心やからだがどんなふうに動いているかという情報を入力するためです。その情報量が増えれば増えるほど、素晴らしいプログラムができて、心身のポテンシャルを活かすことができるようになります。ロボットもたくさんのデータが蓄積されるほど動きが最適化されていきますよね。そう考えると、ロボットにメンテナンスが必要なように、人間にもメンテナンスが必要なんです。それがまさに“自分を大切にする”時間なんだと思いますね。きちんとメンテナンスできている人は、自分の心身のポテンシャルを十分に発揮できるし、健康的で幸福感を得やすい。心にゆとりが生まれるから、他人も大切にできるし、環境にも配慮できるんです。

自分をよく知ると、ゆらいでももとに戻れる

坂入:凸凹の山道でも雨にぬれた地面でも、どんな場所でも走れるロボットを開発するには、うまく走れるデータの100倍以上の失敗した時のデータが必要だといわれています。転んだデータがなければ、転ばないプログラムはできない。だから、よいことも悪いことも経験して、自分のからだを知り尽くす。そのデータが多ければ多いほど、人は生きやすくなります。

─ いい結果だけでは足りないんですね。

坂入:誰だって体調を崩すことはあるし、心の浮き沈みはあります。でも、それは全部貴重なデータ。よいことも悪いことも経験として蓄積していくと、“より健康になる”というよりも、“どんなことが起きても大丈夫なマインド”になるんです。病気や怪我をしても、必要以上に落ち込まなくなる。たとえば、スポーツ選手が骨折したらマイナスに感じるけど、上半身のトレーニングを集中的にしようとか、メンタルを鍛えようとか、できることに目を向けられる。栗山さんもきっとそうじゃないですか?

栗山:はい。もし今、からだが動かない状態になったら、ヨガの仕事はできなくなってしまう。でも、他にやりたいことがあるから、それをしてみようって思えます。大きく落ち込むことが少なくなったかもしれません。

坂入:自分を“よい状態”にしたければ、自分をよく知ること。そして、何がよい状態かは、一人一人違う。しかも、人間は頭で考えると欲求が入ってきて、現実を正しく見れなくなるから、嘘をいわないからだに聞く必要がある。その方法は、ヨガでもスキンケアでも、自律訓練法でも何でもよいですよ。“自分を大切にする”時間で、きちんと把握する。そして、それを習慣化することが第一歩だと思います。

(*1)自律訓練法・・・1930年頃、ドイツの精神科医・シュルツが開発した心身の自己調整法。決められた言葉を心の中で唱えながら、自分のからだを感じられるようにする訓練。

Text/Mariko Uramoto
Photo/Jeremy Benkemoun
Edit/Yuri Abo(REING)

プロフィール

栗山 遥(くりやま はるか)

ヨガインストラクターとして活躍するほか、SNSやメディアを通して、ヘルシーなライフスタイルを発信。自然体なファッションやオーガニックビューティーをはじめ、同世代を中心に支持を集める。

坂入 洋右(さかいり ようすけ)

筑波大学体育科科学系教授。臨床心理士。健康心理学、身体心理学を専門に研究。“心身の状態や機能を本来の姿に戻す”アスレティアのブレスメソッドの監修も行う。

join athletia members

会員登録

athletia membersにご登録いただいたお客様へ、
athletia journalの更新情報や様々な特典をご用意しております。
ぜひこの機会にご登録くださいませ。

LINE公式アカウントに登録する

LINE公式アカウントへ友だち登録いただいたお客様へ、
athletia journalの更新情報や新商品やキャンペーンなどの最新情報、
LINE限定情報をお届けいたします。